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東京高等裁判所 昭和36年(ネ)957号 判決 1962年5月12日

控訴人 有限会社 北但建具店

被控訴人 国

訴訟代理人 小林定人 外三名

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。四谷税務署長が昭和三十五年四月二十一日控訴人所有の三菱製三相電動機一馬力(製造番号第二二六三〇五五三号)一台についてなした公売処分は無効であることを確認する。被控訴人は控訴人に対して金五千円及びこれに対する昭和三十五年四月二十一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求める。

当事者双方の陳述した事実上の主張、証拠の提出、援用及び認否は、左記のほかは、原判決の事実摘示と同一であるからこれを引用する。

立証<省略>

理由

控訴人が木製建具の製造販売を業とする有限会社であること、四谷税務署長が控訴人に対する昭和三十年度法人税等の滞納処分として昭和三十一年十月二十六日控訴人所有の昇降鋸盤一台を差押えたこと、同税務署長が控訴の趣旨記載の電動機一台(以下本件電動機という)は右昇降鋸盤とともに公売処分の対象に含まれているものとして、昭和三十五年四月二十一日公売を実施した結果、訴外萩原節がこれを競落し、同人に右物件全部が引き渡されたことは、当事者間に争がない。

控訴人は「四谷税務署長が控訴人に対してなした公売通知書には、公売財産として昇降鋸盤一台とのみ表示されていたので、本件電動機は公売処分の対象に含まれていなかつたし、また売却財産引渡通知書には昇降鋸盤附属モーター馬力付(内田商会製)一台と表示されているが、本件電動機は昇降鋸盤の従物ではなく独立した物件であるから、昇降鋸盤に対する公売の効力は本件電動機には及ばないから本件電動機に対する公売処分は無効である。」旨主張するので判断する。いずれも成立に争のない乙第一ないし第三号証によれば、本件滞納処分について作成された差押調書には、差押財産の表示として「一、昇降鋸盤(内田商会)一台附属モーター(一馬力)一個一、角ノミ機(内田商会)一台」と記載せられ、また差押公示書には「一、昇降鋸盤(内田商会製)一台一、附属モーター(一馬力)一個一、角ノミ機(内田商会製)一台」と記載せられ、さらに四谷税務署長が昭和三十五年四月十一日なした公売公告には、公売財産の表示として「昇降鋸盤一台附属モーター<記号 省略>内田商会製」と記載せられていることが認められる。

原審証人内田清太郎の証言及び原審での検証の結果によると、本件電動機は控訴会社の工場内に床下でベルト掛式により中間シャフトを経て他の木工機をも運転できるように設置されており、昇降鋸盤のみの動力源として設置された直結式モーターではないけれども、本件差押当時は本件電動機の起動力により中間シャフトを経てベルト掛式に運転されるよう現実に設置されていたのは、前記昇降鋸盤及び角ノミ機各一台だけであり、しかも本件電動機はむしろ主として右昇降鋸盤の動力用として使用されていたのであつて、本件電動機を除いては、右工場内に他に電動機は存在しなかつたことが認められる。

前記差押調書及び差押公示書に各記載されている「附属モーター(一馬力)一個」並びに前記公売公告中に表示されている「附属モーター<記号 省略>」とあるのは、その表示自体からみれば必ずしも明確ではないといい得るようであるが、上記認定の諸事実を合せて考えれば、いずれも本件電動機をさすものであることは疑なく、控訴人その他の関係人もよういにこれを知り得るものと認めるを相当とする。当審での控訴会社代表者安田[イ昜]本人の供述中上記認定に副わない部分は前掲各証拠に照してたやすく信用できない。」他に上記認定を動かし本件電動機が公売処分の対象から除かれていたと認めるにたる証拠はない。従つて本件電動機は昇降鋸盤とともに公売処分に付せられたものであるといわなければならない。

もつとも、四谷税務署長が本件公売処分をなすに当り、控訴人に対してなした昭和三十五年四月十三日附公売通知書には公売財産として「昇降鋸盤一台」とのみ表示されていたことは当事者間に争がないところである。新国税徴収法(昭和三十五年一月一日施行)においては、旧法と異り、国税滞納者に対する公売の通知は公売手続実施の要件と定められているのであつて、たんにこれにより滞納者からの任意の国税納付を促しできるだけ公売処分を避けようとする行政上の便宜的取扱として行うものでなく且つ公売通知書には公売公告に記載されている公売財産をそのまま表示して通知すべきものであると解するのを相当とする。しかし、前段認定の事実に徴すれば、本件電動機は、差押当時上記認定のような実情にあつたため、その差押及び公売公告に当り昇降鋸盤の附属物件であるとして「附属モーター」と表示して取り扱われてきたことが窺えるし、また本件差押調書には差押物件の表示として昇降鋸盤のほか「附属モーター(一馬力)一個」と明記されていること上記認定のとおりであるから、特に反証のない本件においては、控訴人は右差押調書の謄本を受領しているものと認められるし、きらに成立に争のない甲第四号証によれば、四谷税務署長は昭和三十四年二月三日附で控訴人に対し、公売予定財産として「一、昇降鋸盤(内田商会)一台一、モーター(一馬力)一台」と明記して公売予告通知をなしていることが認められる。従つて、たまたま昭和三十五年四月十三日附公売通知書の公売財産の表示に「本件電動機」の記載を欠いたからといつて、その一事で本件電動機がとくに公売処分の対象から除かれたと認めることができないから、右公売通知書に公売財産として昇降鋸盤が記載されている以上これと併せて本伴電動機も公売に付せられる趣旨であることが窺えるし、控訴人自身も右通知書によつてことを十分諒知できたものといわなければならない。よつて、本件電動機に対する公売処分にはこの点について、なんの違法もない。

してみると、右公売処分の無効確認を求める控訴人の本訴請求は理由のないことが明らかであるから棄却を免れない。

次に控訴人は「本件電動機は四谷税務署長の違法な公売処分によつて競落人萩原節に占有を奪われ、控訴人はこれを現実に取り戻すことができなくなつたので、被控訴人に対し差押当時の時価相当額の損害の賠償を求める。」旨主張するけれども、本件電動機の公売処分について控訴人主張のような違法の点の認められないことは前段説示のとおりであるから、その違法であることを前提として被控訴人に対し損害の賠償を求める控訴人の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないから棄却を免れない。

従つて右と同趣旨の原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから民事訴訟法第三八四条第一項を適用してこれを棄却することとし、控訴費用の負担について同法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 村松俊夫 伊藤顕信 杉山孝)

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